
以下は、大部分が1999年7月頃に書かれたものです。
バイアグラに続き、ガウクルアなるものがマスコミで話題になった。 あるTV番組では「巨乳イモ」と少々滑稽な表現をしていたが、 タイ産のマメ科植物の、芋状の形をした根に含まれる成分に、 豊胸すなわち女性のバストを豊かにする働きのあることを、 タイ国立チュラロンコン大学理学部ウイチャイ准教授が発見したという話だ。
同「准教授」によれば、この成分を使って5日でバストが2.5センチ増えた女性もあったと言う。ただし、試した女性の2割には無効で、もともと脂肪の少ない女性には効果が期待できないとのことである。
この成分を含んだクリームが早くも商品化、続いて錠剤が健康食品として輸出され、 ネット通販の商品にもなっていることは、ご存知の方も多いだろう。 原料となる植物は、乱穫による絶滅を防ぐためとかで、タイ政府が輸出禁止にしたと聞く。 元々はタイ北部山岳地帯に自生し、その根を食べると老女が若返って子を産むようになるとか 現地の少数民・モン族に伝わっていたものだそうだ。
この植物の呼び方は、「ガウクルア」のほか、「グワーオクルア」、「グワーオクルワ」など、記事によって微妙に異なるが、自分は結局、「豊胸」でネット検索した。
ネット上の商業広告を見ていて疑問に思ったのは、その【豊胸作用】のある成分が、「女性ホルモンと同じ」または「女性ホルモンと同じ働き」、あるいは「女性ホルモンの分泌を促す」などと、これも記事によって微妙に異なる説明がなされていたことだ。
その有効成分が果たして、以上のうちどれか?によって少しづつ話が違ってくる。
それぞれについて、見やすいように、以下に まとめておく。
| 作用機序 | 胸にぬった場合 | のんだ場合 |
| 同じもの | 皮膚から吸収され乳房に直接作用 | 肝臓で失活するので効果は少ない |
| 同じ働き | 経皮吸収されれば乳房に直接作用 | 胃腸や肝臓などで壊れるなら無効 |
| 分泌促進 | 皮膚→…→卵巣→乳房の経路で、半ば間接作用 | 胃腸→…→卵巣→乳房の間接作用 |
※ぬって使う場合に限って言うと、いずれの場合も(それが本当であれば)乳房の発育を促すことが期待できることには違いない。また、乳房の発育を促すならば乳ガンの発育を促す可能性も予想される。「乳ガンになる」というより、もし乳ガンがあれば大きくなる場合があるということだ。実際、使用上の注意として、乳がん・子宮がん・甲状腺癌の人は使うなと書いてある。
本当はどうなのか?を問う前に、それぞれの説明で商品イメージはどうなるか?を 考えてみると、以下のようになるだろう。
| 商品説明 | 予想される商品イメージ | |
|---|---|---|
| 有効性 | 安全性 | |
| 同じもの | ホルモンなので期待できそう | ステロイドの副作用が心配? |
| 同じ働き | ホルモンと同様なら期待できる? | ステロイドよりは安心? |
| 分泌促進 | 塗って使う場合、ホルモンほどは期待できない? | ?(わかりにくい) |
業者が少しでも商品を売りたいために、いいかげんな説明をしてはいないか?…と問うのが、このページの趣旨である。以下に詳しい考察を述べるが、長文が苦手な読者は、ここをクリックすれば→結論へジャンプする。
人間の卵巣から分泌される女性ホルモンのうちのエストロゲンと同様の物質が、石榴(ザクロ)などの植物に含まれていることが以前から知られているそうだが…エストロゲンを含んだクリームを乳房に塗れば、皮膚から吸収されて確かに乳房を発育させるだろう。(現在、豊胸の目的ではなく更年期障害などの治療として、エストロゲンを含んだ特殊なテープを背中か尻に貼る方法が実用化されている。)
当初、ガウクルアのエキスを含むと言う豊胸クリームの広告には、「女性ホルモンであるエストロゲンと同じ成分」といった説明が目立ったが、その後、遅れて商品化された錠剤の広告では、「エストロゲンと同じ働き」といった表現が見られるようになる。そして、主成分はイソフラボン誘導体といってステロイドとは違う構造の物質で、ホルモン剤のような副作用の心配は無いとか書いてある。
あるネット広告では、クリームにはエストロゲンを含むと言っておきながら、同じページで錠剤の有効成分は「ステロイドホルモンとは異なる構造をしている為に副作用のない安全な食品…」云々と、矛盾したことを言っている。<ちょっと待て。エストロゲンもステロイドなんだぞ。では、「エストロゲンを含む」はウソだったのか?>クリームにはエストロゲンが入っているが、錠剤では抜いてあるのだろうか?
世間では「ステロイドは副作用が恐い」という偏見を持つ人が多いので、 販売業者側としては、消費者に敬遠される恐れのある「エストロゲンと同じ」と言う表現は避けたいところだろう。
「エストロゲンと同じもの」を服用した場合、腸で吸収されて門脈から肝臓を通るうちに、かなりの量が壊され、乳房や子宮に届く前に失活してしまって十分な効果が期待できないはずである。(それで婦人科医が使うホルモン剤などは、肝臓で壊されないための細工がしてある。)そこで、クリームの広告ではエストロゲンと「同じもの」と言っていたのを錠剤では「同じ働き」と言い換えて誤魔化していないか?
さらに別の広告では、イソフラボン誘導体が中枢神経を刺激して卵巣からのエストロゲン分泌を促すと説明している。英文の記事で研究者の主張を読むと、どうやらこちらの「中枢神経を刺激…分泌を促す」が元々の説らしいが、この「ホルモンの分泌を促す」と「ホルモンと同じ働き」とでも、やはり話が違うのだ。
女性ホルモンと「同じもの」でも「同じ働き」でも、それを塗って乳房に直接作用することが期待できるのだが、ホルモンの「分泌を促す」物質の場合、それを乳房に直接塗る意味は半減する。残りの半分はマッサージ効果だが、有効成分が作用するには、皮膚から吸収されて血液に溶けて脳内に達し、刺激された脳が出すホルモンが卵巣を刺激…という回りくどい段階を経なければならない。
つまり、「分泌を促す」物質の作用は間接的ということだが、 間接作用より、直接作用であってほしい…その方が分かりやすいし売れるだろうから… というのが、クリームを売りたい業者のホンネではなかろうか。 後発の錠剤が輸入できるようになった現在、クリームの売れ残り在庫を抱えたくない業者ならば尚更だろう。
もしかしたら、ホルモンと「同じ働き」と「分泌を促す」の両方かも知れない。ただし、クリームは「ホルモンと同じ…」、錠剤は「分泌を促す」の方を強調するのが「商売」だろう。しかし、ホルモンそのものが入っていないのに「入っている」と偽るような、 いい加減な商品説明を載せるようでは、本物のガウクルアであるかさえ、疑われても仕方がないだろう。
このページの著者は、食品・薬品の製造・販売業者とは無関係です。
ガウクルアの入手方法に関するお問い合わせは御遠慮下さい。
有効な成分が含まれなくても、性的興奮が伴うならばマッサージだけでも中枢神経が刺激されて女性ホルモンが増える。つまりオナニーだけでも有効なわけだが、それより、好きな男性に触ってもらうことが効果的な刺激になるはずだ。そういう意味で、ガウクルアを使うことは一種のオナニー?…は、言い過ぎだろうか。
余談であるが、ガウクルアは地元のゲイの人の関心も集めたとか記事になっていた。 これも有効成分が「女性ホルモンと同じ働き」か、「中枢神経を刺激…」かで話が違って来る。
男性の身体に女性ホルモンが作用すると「女性化乳房」といってバストが大きくなる現象が起きるが、「中枢神経を刺激…」の場合、卵巣を持たず精巣(睾丸)が残っている人に作用すれば、睾丸からの男性ホルモン分泌が促されて逆効果となると考えられる。
しかし、本当に中枢神経を刺激して性ホルモンの分泌が促されるならば、女性ホルモンも男性ホルモンも発情作用があるため、今後ガウクルアは男女ともに使える催淫剤(性欲増進剤)としても注目されるかも(あーかえって業者にビジネスのヒントを提供してしまった)。
この記事を書いてから約三年の間、送信フォーム通じて閲覧者からコメントを 数件いただいた。実際に効果はあるらしいが、それなりの有効性があるならば、 それなりの危険性も伴うと考えるべきだろうし、あまりに効果が著しいものは 合成薬剤の混入も疑われる…と私はコメントした。
ステロイドおよびホルモンという用語について。
これでも自分は日本内分泌学会の年会費を滞納したことがあり、ホルモンにはうるさい。
スポーツの世界で問題視される「筋肉増強剤」もステロイド、 喘息や皮膚炎の患者で使われる吸入・内服・外用の薬もステロイド、 婦人科医が使う注射・内服・外用のホルモン剤もステロイドだが、 混同してはいけない。 それぞれの作用は大きく違うし、使い方によって副作用も違う。 胃腸障害など共通した副作用もあるが、 男性ホルモンと女性ホルモンのように互いに反対の作用を持つものある。 女性ホルモンはステロイドだが、筋肉増強剤にはならない。
ステロイドとは、天然か人工かを問わず、 特異な分子骨格を持った物質の総称であって、 人体では性腺(精巣・卵巣)が分泌する性ホルモンのほか、 副腎皮質が分泌する多種多様なホルモンもステロイドである。 漢方で使う薬草にもステロイド類を含むものが多い。
ホルモンとは体内で血液を介して離れた臓器に影響を及ぼす物質を言う。 このページで問題となるエストロゲンは、ホルモンであり、ステロイドであるが、 ホルモンでないステロイドもあるし、ステロイド以外のホルモンもある。(戻る)
| ┌→(+) | 視床下部 |
|---|---|
| │ | ↓ |
| ├→(-) | 脳下垂体 |
| ↑ | ↓(FSH・LH) |
| E ← | 卵巣(卵胞) |
FSHは卵巣での卵胞の成熟を促す。卵胞とは受精卵の候補生であり、成熟するほどエストロゲン(E)を分泌する。Eは脳下垂体のホルモン分泌を抑えるが(-)、Eの分泌量が十分になると(+)視床下部が脳下垂体からLHを出させ、成熟した卵胞の排出(排卵)を促す。
LHによって卵胞は黄体と呼ばれるものになり、Eのほかにプロゲステロン(P)という女性ホルモンを出して子宮に妊娠の準備をさせるが、妊娠が成立しなければEもPも出さなくなる。(このとき子宮からの生理的出血がもたらされる。)Eが欠乏するとまた視床下部−脳下垂体系が働いて卵巣を刺激する。
以上が月経周期であり、それに応じてエストロゲンの分泌量も周期的に変動する。(戻る)
イソフラボン…について
イソフラボン類と呼ばれるもののうち、大豆に含まれるゲニスティンという物質に性ホルモンと似た働きがある。ただし、ゲスティニンは本物の女性ホルモンと競合する(偽のホルモンとして働く以上に真のホルモンを妨げる)らしく、むしろ乳ガンを抑制することが知られているので、大豆に豊胸作用は期待できないと考えられる。
もし、ガウクルアが含むというイソフラボン…が真のホルモンと競合しても女性ホルモンとしての作用が上回る(あるいは、脳への作用を介して間接的に卵巣を刺激する結果、妨げられる以上にエストロゲンの作用が増える?)としたら、興味深い話である。(戻る)